ステファン・サグマイスター(グラフィックデザイナー/オーストリア、NY)
2001年 NY:中国のデザイン雑誌『Lighter』に寄せたテキスト
Stefan Sagmeister http://www.sagmeister.com/

 流行の書体やフォトショップの新しいフィルターの使用が画期的としばし誤解されているこの業界において、私を心底興奮させるデザインにはますますお目にかからなくなっている。
 そんな中で、エリザベスがウィーン・アート・オーケストラのためにデザインした神秘的な濃い青のミュージック・ボックスは、私を完全に圧倒した数少ない作品の一つである。音楽を美しく包むだけではなく、音楽そのものを奏でる。その結果、こんなにも優雅に創り出されるデザインとコンテンツとの対話を、私はかつて経験した覚えがない。彼女はそれぞれ10曲ずつウィーン、アート、オーケストラに関する30の短い楽曲を委託した。それらは限定版のCDパッケージのひとつが開かれるとき、精密なハーモニカ・システムを通して奏でられるのである。ウィーン・アート・オーケストラの音楽家たちがこのパッケージを楽器として用いてライブ演奏を上演した。アートとデザイン、ひいては音楽と物体との間の境界線さえぼやかしてしまうコンセプチュアルなループ。これこそまさに画期的である。
 彼女は真剣で、ひたむきで、こだわりがあって、愉快で、知性的で、根性があり、確信に満ち、よきデザイナーとしての全ての質を備えている。しかし私が彼女に「最も誇りにしている実績は何か」と尋ねると、名誉ある受賞や特にすばらしくデザインされた作品のことではなく、息子のルークがいかに愛らしい少年に育っているかということを語るのである。
 彼女はまず第一に尊敬に値する人間であり、ほとんど重要ではないけれど敢えて言うならば真にすばらしいデザイナーである。そんな彼女を親友の一人に数えている私は最もしあわせな人間であり、そのおまけとして、かくも偉大な彼女の中のインスピレーションがデザイン・コミュニティーにもたらされることを喜ばしく思う。


 

ステファン・サグマイスター
2003年 出版社ファイドン刊グラフィック・デザイン大全『AREA』に寄せたテキスト

 オーストリア赤十字のための展覧会デザインをしていたとき、彼女はクライアントを通して知った。応急処置が必要とされるような状況において、多くの人が助けたいとは思うが、なにしろ習ったのはしばらく前だし、間違ったことをしてしまうのでは、と怖れている。応急処置のきまりが書かれているようなパンフレットは、そうした怖れを減らすには役不足だった。きまりは人々の頭に入るまで常に繰り返し示されなければならない。
 コップフの対応はこうだ。様々な応急処置のきまりを、CDカバーであれ劇場のポスターであれ、講演会の招待状であれ、彼女のスタジオで制作されるありとあらゆるグラフィック・デザイン作品に印刷した。もしクライアントが応急処置のきまりを掲載することを拒否し、しかも引き続き彼女のクライアントでいたい場合、彼らは赤十字に寄付しなければならない。このアイデア、拝借したいと思わずにいられようか。