渡辺 司[長崎]


吉田勝二[長崎]


平 節子[長崎, 2010]

 

初対面の相手の緊張を解くため、約2時間をかけて話を聞く。戦後50年が過ぎてようやく語り始めた人々、傷を負った容姿への差別と戦ってきた人々、今も消えない恐怖、命を奪われた犠牲者への無念と後悔、生かされたことへの自責と使命、重荷、信念、平和への想い。語ることで引き戻される「あの時」。サヴィアーノはその「感情」に迫る。ポーズはつけず、傷痕も写さない。あくまで被写体の内面と向き合い、想像を絶する困難を乗り越えて来たその人生の旅路へと寄り添う。
撮影は15分ほど。現在を生きる彼らのまなざしにフォーカスするため、周辺の情報を極力抑えたシンプルで静謐なモノクローム。託された祈り、その背景にはいつも空がある。

センセーショナリズムを求めるゆきずりの写真家ではないことがわかると、被爆者との間には国籍も世代も超えた友情が育ち始めた。サヴィアーノは、このプロジェクトが個人的な動機によるものであることを認めている。彼らの写真をアルバムに収め、彼らとの個人的な関係を育むだけでもよかった。あくまで自身のアートとして被写体の人生に向き合った一人の写真家の軌跡は、声を張り上げる平和運動やデモンストレーションに馴染みのない同世代を中心に、ゆるやかに波紋を広げてゆく。