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 今回の作品、『ABSTRACT』は日本での経験によって生まれたものですね。日本の印象や『ABSTRACT』が生まれた背景について教えてもらえますか?

 


 

 日本にはこれまで2度ほど行きました。初めて成田空港に降り立ったとき、私はフランスのことわざにもある「水を得た魚」の感覚を得ました。ここにいることはとても楽で、自然だったのです。残念ながら、日本語はまったく分からないけれど、人々とコミュニケーションをとるうえでは、何ら障害になりませんでした。多少は欲求不満の状態に陥ったとしても、「ロスト・イン・トランスレーション」的な状態には決してならなかった。旅行をしていると、気が滅入るときがあります。時として、私たちは旅先なのに自分の家にいる快適さを求めてしまう。私の場合、そういった感覚をスペインとイギリスで経験し、私がスペイン語や英語を話せることは何の役にも立ちませんでした。興味深いのは、言語が介在しなくても、驚くようなコミュニケーションが起こることもあるし、日本ではこれによって多くの人たちと出会ったし、それは私の記憶にはっきりと残っています。

『ABSTRACT』のテーマは、友人の風景画家との会話から生まれました。私たちは日本庭園が相反するものの調和を探求する場所であることについて話していました。洗練と荒々しさ、喧噪と静寂、闇と光、隠すことと明らかにすること……。何か力強いものが私の心の中で弾け、私はただその直感を探ってみたくなったのです。

『ABSTRACT』の初期スケッチ

 

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